【レビュー】起業のファイナンス
Twitterでかなり評判のよかった本書、まずは評判通りと言えると思います。
この本を読んでいて、起業に対するイメージがまた一つ変わりました。
それはこんな点で。
- 起業はそんなに難しいとじゃなくて、体系的に勉強している人が少ないために世間的なイメージでハードルが上がっている。
→これはこのまえ紹介した『拝金』でも触れましたが、大企業安定主義の日本人の考え方が「起業=リスクor人生の一大事」みたいな印象にしているんじゃないかと感じます。
これは日本人の資産構成が預金に傾倒になっていて、投資信託や株式投資に分散投資しているアメリカ人の資産構成とは一線を画す現状とイコールなんじゃないかと感じます。
リスク回避的なのは国民性であって、実際は倒産したからって死ぬわけじゃないし、まずはやってみたらいいじゃん、という印象でした。
- 起業しよう!と思い立ったところから上場する(もしくはバイアウトする)までの流れを時系列に教えてくれる。
→普通はファイナンスに関する知識をケーススタディになぞらえて、色々紹介するというのが一般的ですが、本書では「例えば起業したら…」というのがベースにあるので、話がややこしくなくてよかったです。
- 言葉遣いが何よりわかりやすい。
→前編を通してすごく平たい表現を使ってくれているので、いわゆる「ファイナンスの専門書」という感じは全くしません。
専門的な話をする時も、簡単なケースだけを紹介して難しい部分は注書きにしたり、「ここでは知らなくていいよ」という様に書いてくれるので安心できます。
もしかしたら専門的な勉強をして来た人(MBAホルダーとか?)には物足りないのかもしれないですが、僕みたいな学部卒で社会人になったレベルにはとても合っています。
それでは自分で読んだことを振り返る意味も込めて、勉強になったと感じた点をまとめます。
ちなみにこれは本書の要約ではなく、ただの個人的なメモです。
ベンチャービジネスでは銀行融資ではなく、株式で資金調達をするべき。
銀行は毎月元金返済が必須で、遅れたら全額を即時で返済しなくてはならない。株式の場合は金利も払う必要も、元金を返す必要もない。
キャピタルゲインを生み出す方法。
①上場アメリカ⇒未上場の内に力を蓄え、時価が最高になるタイミングに合わせる。そのためあまり上場自体を急がない。
日本⇒一刻も早く上場
「上場企業」というブランド効果により、経営資源の調達効率が高まるため。
②バイアウト
⇒バイアウトする価値のあるベンチャー企業が増えれば、イノベーションが活性化する。
起業のモチベーションは「カネ」より「ワクワク感」。
「今までボロアパートで暮らしていた兄ちゃんが資産を10億も持てば、たいていのことは間に合ってしまうはず」とあるように、カネのモチベーションはある程度会社が大きくなれば達成されてしまうようです。だから起業して頑張れている人の動機はきっと「こんなサービスで…」とか社会影響力への期待によるものが大きいんじゃないでしょうか。
きっとキレイゴトではなく。
だから資本主義=金の亡者的な考え方は必ずしもリアルではないんでしょう。
資本金が大きい方がエラいと思うのは、銀行(債権者)中心の社会におけるマインド
⇒資本金は、債権者が資金を回収するためのバッファだから。⇒ベンチャー企業においては、資本金は「なるべく減らす」もの。
エレベータ・ピッチ
エレベータに乗った数十秒の内に、ビジネスプランを説明して興味を示してもらえるようなプレゼンテーション。損益計画で押さえる基本ポイント
- ターゲットとなる潜在顧客がどれだけいるか。
- そのうち、顧客になるのはどれくらいか。
- 顧客、商品あたりの単価
- 結果としての売上
- どのくらいの経費
- 差し引きの利益
CF=当期純利益+減価償却費-設備投資額
事業計画をプレゼンするときのツボ
企業価値の評価方法
1株5万円で上場、まだ黒字も出ない段階で1株20万円で資金を集めたい。「古い投資家の発想」
→まだ赤字なのになぜ20万も必要なのか!?
→純資産が30%減だから、1株35,000円のはずだ!
⇒ベンチャー企業は過去で勝負してはいけない。
…起業当初は赤字続きに決まっているため。
⇒未来の可能性でその価値をみるべき。
DCF法(Discounted Cash Flow)
- 企業価値の最も理論的な評価方法
- 将来入ってくるキャッシュフローを、現在の価値に割り引いたものがその企業の企業価値だと考える
- 数式は本書P.168
Cn:各年のキャッシュフロー、r:割引率
で構成される。
※割引率
創業期で黒字も見えない⇒結果的に40~60%
上場確実⇒10~20%
- 将来のキャッシュフローが大きいほど企業価値は高く、小さいほど企業価値は低い
- 将来のキャッシュフローの確実性が高いほど企業価値は高く、確実性が低いほど企業価値は低い
ストックオプション
将来のキャッシュフロー、ある一定の条件で株式を安く買える権利。将来株価が上がれば、その上昇分その人のキャピタルゲインになる。
◆基本的な仕組み◆
- 行使価格(Strike Price)
- ストックオプションを受けてから行使できるまでの期間…クリフ(Cliff)
- 何年かに分けて行使できる…べスティング(Vesting)
⇒せっかく勤めてくれた役職員がすぐ辞めないように
⇒発行ストックオプション数は上場までの累計で10%以内が無難、多くても20%まで
⇒オプションバリュー…タダのストックオプションをタダであげることにもったいなさを感じる…そこに価値のある!!
- ストックオプションは未上場の場合、費用計上しなくて良い
- 上場したら費用計上
⇒利益圧縮につながるため、株主の利益に反する
⇒上場後のストックオプション発行をしないベンチャー企業が多い。
資本政策
どんな株主に、いくらの株価で、何株分の株式やストックオプションを割り当てるか。【作り方】
- まず、全体のざっくりとしたバランスを見る。
- ビジネスモデルのコンセプトを話し合い、顧客数や単価を想定。
- キャッシュフローや利益を見積もり、そこから成長フェーズごとの企業価値を想定。
- 資本政策がうまく組めるか考え、細かい計画に落とし込む。
- 実際に事業を始める前にワークシート上で試行錯誤する方がはるかに楽!
- アメリカ平均よりも、創業者は高い持ち株率を持って上場した方が、日本では成功しやすい
日本:社長が過半数の株式を持って当然という通説
米国:株式公開時に創業者が10%を切る創業者もザラ
↓
日本の資産は55%が預金/米国はリスク資産が大半。
⇒資金の流れ方が違う。日本は社会全体がリスクの扱いに慣れていない。
↓
日本の上場は早産になりがち
プロ経営者の存在
日本の創業者は一度経営を始めたら、基本的には一生自分で経営責任を負わなくてはならない。⇒アメリカのように、何社も経営をした経験のある人材が少ない。
資本政策も好循環に乗れる資本政策であることが重要。
企業価値は倍率で考えてはいけない。
⇒昔はひと株単価、資本金下限が決まっていたので倍率表現できたが、今は関係ない(→これも昔の投資家の発想)
というように長々としたまとめになってしまいましたが、この本は読んでいて「?」となることが少なく、非常に入りやすかったです。
また、一般的に投資する側の勉強はこのご時世やる人も多いですが、この本では一貫して「投資される側」の目線で書かれているので、「投資家に損をさせない」とか、「企業価値を上げる」とかそういった見方を知れたのはなかなか勉強になりました。
最後に、起業家がどんなに知識があってカネを集めても、『アニマルスピリット』がないと成功しないというのは著者の強い想いとして届きました。
別に起業しなくても何かに取り組む上でその心構えは必要不可欠でしょう。
この点についても、きっちり銘記しておきたいと思いました。