【レビュー】セイラー教授の行動経済学入門
久々のレビューは、会社の大先輩からお借りした行動経済学の本です。
色々な選択肢を出して頂いて、散々難しいと言われた上で借りたので、このレベルのレビューで勘弁して頂ければ、と汗。
セイラー教授の提唱する行動経済学の論文はもうすでに20年以上経っている古いもの(といっていいのか?)ですが、その内容は今読んでもまったく色褪せてる感じはしません。
ただ、いかんせんその内容が非常に難しくて通勤時間で読み切るのに何ヶ月もかかってしまいました汗。
それくらい本格的な行動経済学の理論が連ねられているので、本当に興味ある人かとても頭のいい人にしか正直おすすめはできません笑。
主旨は、以下のようなもの。
経済学者は自分と、自分が信じた経済理論に忠実な経済主体を前提としたモデルを信じ込む。
つまり、自分が理想とする状況を作れる過程しか利用しない。
本当はあらゆる状況をくまなく試して、それぞれの結論について流動的に定義するべき。
そんなところに踏み込んでいますが、いかんせんやはり難しい。それでも読みながら興味を引いたポイントを以下にまとめます。
プロスペクト理論
不確実な将来の意思決定において、人間は必ずしも合理的な行動をしない。特に参照点(自分が基準値として意識している点)からの上下によってその行動は大きく変わる。
ex.株式の取得株価がいくらだったか(500円で買った時と2,000円で買った時)という参照点によって、同じ単位株価1,000円という株価でも売るかどうかという判断に違いが出る。
双曲割引
人間は非常に先にある報酬と、割と目先にある報酬とを正確に比べられない。ex.投信の毎月分配型は複利方式で計算すれば手数料の面からも実利益の面からもメリットの方が大きいはずだが、なぜか毎月小銭のバックがある毎月分配型の方が人気がある。
協調戦略
ゲーム理論において、人間は合理的&自己利益中心的に行動する。しかし選挙の投票先やチップの金額はそれ以外の要素によって例外的行動が多く見られる。
⇒人間はいつどんな理由で協力するのか?
①一回限りの公共財ゲーム
強いフリーライダー仮説は支持しない。
つまり、安すぎるものはウサン臭くて支持されない。
最適資金量の40〜60%にもっとも多く集まる。
②複数繰り返す公共財ゲーム
一回目は①と同様の結果を返す。
繰り返すと協力度は下がり、最大時の16%にまで落ち込む。
互酬主義を行う者は、行わない者より長期的に見れば高い配当を受け取る。
◆なぜか?⇒協調ありきの人間は他人からの協調をうまく引き出すほか、他の協調者たちにうまくやりとりしてみようという気を起こさせるため。
※互酬主義…人間は自分にされたように相手にする傾向があるということ
◆協調戦略からわかること。
常に利己的合理性を追い求める人々は「合理的な愚か者」
自己利益だけに基づいて行動すると、関係者すべてにとって最適な結果には達しない。
⇒つまり、「分別のある協調者」に注目しなくてはいけない。
最終提案ゲーム
【概要】・Aに100ドル渡す。
・AはBにいくら渡すか決める。
・Bが承諾すれば成立。
・Bが断れば二人ともゼロ。
⇒①配分者はゼロに近い値を提示。
⇒②受け手はゼロでなければ提示を受けるはず。…というのが理論上の話
【結果】
最多の提案は50ー50。
平均は0.37倍。
①の例外:配分者はしばしば50ー50という気前の良い提案をする。
②の例外:ゼロではないが、人を小馬鹿にしたような提案は拒絶される。
◆受け手には配分が不公平なら断る意思があり、配分者には公平に分けようとする思考がある。
◆人間は少ないよりも多くのお金を望み、他人に対しては公平な扱いをしたいと思う。
産業間賃金格差
同一職種でも産業が違うと給料に差が出る。⇒同じ経理職でも外資系企業と町工場では当然違いますよね!
賃金構造の格差は長期間に渡って安定していて、その格差の相関係数はなんと0.8もある!
⇒じゃあどうする?
◆効率賃金モデル
means 結果は労働者の努力次第、努力は賃金の多寡に影響するべきとする、4タイプのモデル。
①怠業回避モデル…給料○⇒結果○
高い賃金を支払うことでサボりを防ぐ。
★職を失うリスクがあれば、より一生懸命働くか?そもそも高給に見合うだけの働きをしていたか??
②雇用安定モデル…離職者を減らす為に高賃金を支払うう。
★高給により離職者は減るが、それが利益最大化につながるかは不明。
③逆選別モデル…賃金レベル○⇒就職希望者の労働特性平均○
④公正な賃金モデル…従業員が考える賃金平均より高い⇒企業の支払うインセンティブとする。
★一番データに適合するが、高いモラルから得られる限界利益が、限界コストとイコールになる様な真の賃金効率を求めることは難しい。
※給料と言えば労働組合が引き合いに出されるが、労組組織率は産業間賃金格差に影響を与えても、産業間賃金構造を決定するものではない。
オークション、株など取引にまつわるあれこれ
①勝者の呪い…推定価格の予想は下値に偏り、落札価格は実際の価値よりも大きくなる。⇒オークションで勝ち取った財の価格は実価値よりも高いことが多い。
②保有効果…手放す代価として、手に入れる以上の金額を要求すること。
⇒所有している財の魅力よりも、それを手放す苦痛の方が強く働くため。
③現状維持バイアス…2つのオプションの有利さの大小を比較する時より、不利の大小を比較した時の方が影響が大きい。
⇒「もし〜だったらどうしよう」という発想が現状維持に拍車をかける。
④損失回避コスト
⇒公園を維持するために一人いくら払えばよいか?の回答>自分が本音で出してもよい金額。
⑤選好の逆転
・100ドル当たる確率が50%の賭けにいくら払うか?の回答が40ドルであるという前提。
・100ドルが当たる確率が何%だったら40ドル払うか?の回答は50%よりも低くなる。
心理会計
少額の偶発的な臨時収入は普通預金に入金され、ほぼ消費される。その一方大きな額ならば定期預金を組み、消費される部分はずっと少なくなる。
株価予測
◆ブローカー暦…株式市場の運勢を$マーク1〜5個で示すカレンダー。・金曜は良い日、月曜は悪い日
・一月はどの日も良い評価
・月初は特に良い
・月初めの数日と月の末日は平均よりも高く、法定休日の前日が最も良い
⇒その仕組みは?
◆一月効果…小型株のみで有効
・小型株の超過リターンの50%は一月に発生し、その内の50%(つまり25%)は年初の5営業日に集中。
・前年に株価が下がった小型株のリターンが高くなる。
・前年に株価を上げた勝者株の小型株は年初の5営業日に超過リターンは見られなかった。
・世界の16カ国中15カ国で一月効果は有効!⇒様々な文化圏に関わらず効果がある。
※キャピタルゲイン/ロスの相殺申告が認められない日本でも一月効果は有効!
◆週末効果…株価は土曜日に上がる
・月曜の平均リターンは全期間においてマイナス
⇒金曜の終値と月曜の始値の間で発生。
⇒月曜取引開始直後の45分間に集中して押し寄せ、株価を押し下げる。
◆ブリップ現象
・リターンは毎日引けの直前に高くなる。
・特に最終取引の注文が出るとその傾向は顕著
※逸脱したアブノーマルリターンが発生
①年、月、週、日の変わり目
②休日の前日
⇒しかし、この効果は高い取引コストを負担してまで活用するものではない。
はい、非常に長文かつ難しいまとめになってしまいましたが、これでも大分省いて書きました。
もしご興味沸かれた方は読んでみても良いのでは?
ちなみに僕は10年後にまた読んでみたいと思います。